水〜その透明な冷たさ〜

 近頃、「水」というものの凄さに驚かされる。水には他の水分では味わうことの出来ない感覚を備えている。それは喉を入り口とした、自身ですら上手く把握出来ていない体内を瞬時に駆け巡る侵食力。心臓に確かな潤いの余韻を残し、水が全ての迷宮を通り過ぎた後でようやく、この状態を認識することが出来る。その速度と認識の関係は流れ星を見た時の感覚に近い。

 水は自身よりも体内について博学であり、認識は一人取り残される。

 この見えないところでのレースに対する反応が鈍くなれば、おそらく溺死してしまうのだろう。水は透明で、とても冷たい。

 その透明な中に潜む加速力と、冷たさの中にある恐怖。それを少量ずつ体内に取り込むことでどうにか、潤いを感じる程度で止めることが出来ている。体内を駆け巡っている間、水は完全に、自身の感覚を翻弄している。

 自分にとって水とは一体、味方なのか敵なのか。

 改めて、水というものに対し畏敬の念を感じずにはいられない。