ゴースト

 優しさは穏やかな闘争心を生み出す。日常を、寝ている時間をもすら取り込んでしまう流れ。そこに観えてくるものはまるで無声映画のようだ。時の中を機能的に動き、自身を動かしている感覚が細部にまで伝わり、静止して見える風景の中を動くゴーストのように。

 声は無く、音がある。感情は分散し、陽の光が凝縮する。何者かが、闘争心を運ぶ。

 何と闘うための心なのか。心は何と闘いたいのか。闘うと心はどうなるのか。闘うのは心だけなのか。何を得るのか。何を失うのか。何かを取り戻したいのか。見返りを期待しているのか。闘いの渦中にいるのか。客観的な場所から闘いを見物するのか。

 穏やかな優しさは温度が低く、薄い氷のような感覚だ。触れても良いが、壊してはいけない。陽の光が溶かすまで、じっと待つ。心を温め、しかし感情が蒸発しないように注意を払いながら。

 やがて闘争心は適温となり、無声映画に生温かい血が通い始める。