空の住人が描いたもの

 台風が過ぎ去った後の空を見る。薄い水色は照れているかのように輪郭をぼやかし、取り戻されつつある活気を聴いている。

 もしも今、「これが海だよ」と言われれば、何の迷いもなく信じてしまいそうな透明さ。通り行く人たちは無意識に、コンクリートに照り返された熱への苦渋の顔を浮かべている。

 台風の存在について思う。

 それはきっと突発的な衝動で、空というキャンバスに何かを残したくなったときに起こるのだろう。

 では、何を残そうとするのだろうか。

 灰色の雲は葛藤で、激しい雨粒は生命の摩擦。風は孤独で、僕たちは未だその意味を知らない。

 空の住人たちは台風をじっと見守る。もしも手を差し伸べてしまったら、台風はきっと行き場を失う。

 目の前で行なわれている創作に対し、自分はとても無関心だ。それはつまり、創作というものへの無知が選び取ったことなのだろう。

 一つの台風が命を削りきる。後には薄い水色の空が残されている。台風が残したかったのはこの水色で、そのために創作をしたのだろう。突発的に膨れ上がる衝動と、自身の生命を反比例させながら。

 創作過程で何かを破壊したかもしれない。それでも、この水色を描かずにはいられなかった不器用な感情。

 台風が描いた水色には、優しさと温かさが、薄くぼやかすように滲み出ている。