一つの音楽が残した場所

 時刻が次の日を跨いだ頃。部屋の明かりは全て消し、窓から差し込む光が白い壁に、二つの重なり合った四角形を作る。

 音楽を流しながらボンヤリと、ドコに焦点を合わせるでもなく空間に身を委ねる。目は、閉じずに。

 空想の世界。

 朝日が出る間際の薄明かり。白と水色の空には、星たちのいた温もりが残っている。背の低い花。早起きな羊。

 目覚め出す。今日から全ての音が消える。それが自然であるかのように。

 ある人は、一人でいることの寂しさから死んだ。

 ある人は、集団の快楽で死んだ。

 生き残るのは無音を受け入れた者たちで、そこには果てという概念がなくなる。

 音を求めた者は消える。死とは違う、存在の不明。

 僕はきっと、海岸沿いを歩き続けるだろう。無音の車を横目に、波が作り出す、砂との境界線の意味も問わずに。

 過去を失った無音の者たち。眠ることにした意識の欠片が、その者たちの瞳に潤いを施す。

 瑞々しい瞳は、消えることの出来ない不自由を眺めるだけ。

 その時に初めて、月と太陽の儚さを知る。

 こんな空想の世界に浸りながら、部屋には今も、音楽と、重なり合った四角形の光が在る。