ピアノ独奏曲
人からちょっとした、それでいて当事者にとってはとても大切な悩みを相談されることがある。そのような悩みは悲しくなるほどエネルギーに満ちており、とてもシンプルな旋律が流れている。その姿は、本来ならばカルテットな筈の曲を、否応なしにピアノで独奏している感覚。
そんな主旋律に触れて、自身の欠落した感情に気づく。
きっとその感情が欠落しているのは、心に壁を構築するため。その壁が、自身を守る最後の砦となっている。
しかし、自身を守るがために、他者の苦しみを理解できない。理解できるとは言えなくとも、壁が歩み寄りを阻んでいることも事実。自身は壁の中でもがくことしか出来ず、他者はその壁の存在に気づかない。
相談者が独奏せざるを得ないのは、そんな壁の存在なのかもしれない。だとしたら、自分は聴き役であると同時に加害者だ。このような状況の中、相談者は更に伴奏を進めていく。
負のエネルギーが突き動かす独奏は途中何度も迷走し、たった一人の聴衆である自身に対し、スタンディングオべーションを受ける日を待ち焦がれている。