対話の空間にあるもの

 「距離」というものについて考える。人との距離、場所との距離、時間との距離。生きていると多くの距離に囲まれていて、自身を軸にその距離を測る。

 大切なのは正確な物差し。その物差しを手にするには、人は多くの経験を積まなければならない。偏差値などと言うような暫定的なものではなく、もっと決定的な、その後の道を方向付けるような物差しを。

 物差しを使うのは怖いことだ。全ての距離を測りたいわけではない。知りたくないものほど測ってしまったりもする。ふと、本能という次元で。

 知ってしまった、知ることを運命付けられた瞬間の脱力。

 道標の先が崖であることを確認した時、後ろを振り返っても道がない。今来た道さえ消滅してしまう。自身が完全に一つの点となる。

 しかし、点になって初めて考える。崖を渡る方法を。助走をつけてみる、道具を使う、引き返す、或いはソコに留まり続ける。

 それがどんな手段であれ、そこに生まれた思考は真実だ。正確な物差しは純度の高い思考を生み出す。

 そんな物差しを小脇に抱え、今日もあらゆる距離との対話をする。軸の現状、その可能性を知るために。